主な医学小説

『神々の沈黙』

(改題『神々の沈黙 心臓移植を追って』)

昭和44年 朝日新聞社

心臓移植手術の歴史を追いながら、外科医や患者など手術にまつわる人間の姿を浮き彫りにした長篇。

『消えた鼓動』

昭和46年 筑摩書房

『神々の沈黙』の創作ノートとも言うべき作品。札幌医科大学で行われた日本初の心臓移植手術の全貌を記した。

『日本医家伝』

昭和46年 講談社

笠原良策、中川五郎治、前野良沢、楠本イネ、高木兼寛など近代医学の礎を築いた12人の医家、それぞれの生き方を描く短篇集。

『めっちゃ医者 伝』

昭和46年 新潮少年文庫

『雪の花』

昭和63年 新潮文庫

福井藩の町医笠原良策は、私財を投げ打ち、種痘の苗を福井に持ち込んだ。人々を救うため、種痘の普及に尽力した良策を描く歴史小説。

『冬の鷹』

昭和49年 毎日新聞社

前野良沢と杉田玄白を対比しながら「解体新書」の成立過程を描く歴史長篇。良沢の生き方に光を当てた。

『北天の星』上・下

昭和50年 講談社

中川五郎治は、抑留されたロシアから生還後、北海道松前で日本初の西洋式種痘(牛痘法)を行った。五郎治の一生を追う歴史長篇。

『ふぉん・しいほるとの娘』上・下

昭和53年 毎日新聞社

楠本イネは、江戸後期に来日したドイツ人医師フォン・シーボルトの娘。女性産科医となったイネの生涯を描く歴史長篇。

『光る壁画』

昭和56年 新潮社

胃カメラは、世界に先駆けて戦後間もない日本で開発された。技術開発に邁進した医師や技師の姿を追求した長篇。

『花渡る海』

昭和60年 中央公論社

川尻村(現広島県呉市川尻町)に生まれた水主・久蔵は、漂着したロシアで西洋式種痘法を学んだ。日本に初めてその技術を持ち帰った久蔵の人生を描いた歴史長篇。

『白い航跡』上・下

平成3年 講談社

高木兼寛は、海軍軍医として脚気の予防法を確立した。後に東京慈恵会医科大学創設者となった兼寛の姿を描く歴史長篇。

『夜明けの雷鳴 医師 高松凌雲』

平成12年 文藝春秋

高松凌雲は、パリで医学の精神を学んだ後、旧幕臣として函館戦争に参加。戦場で敵味方の区別なく治療した。凌雲の生涯を記した歴史長篇。

『島抜け』(「梅の刺青」収録)

平成12年 新潮社

短篇「梅の刺青」は、明治2年に日本で最初の献体をした遊女をはじめ、初期解剖の歴史を主題とした作品。ほか「島抜け」「欠けた椀」を収録。

『暁の旅人』

平成17年 講談社

松本良順は、長崎でオランダ人医師ポンペに医学を学んだ。幕末維新の動乱期に、医師として自らの信じる道を貫いた良順の姿を描く歴史長篇。

主な関連随筆集・対談集

医学小説の創作過程のほか、自身の肺結核による闘病と肋骨を切除した手術体験、
また、患者と医師との関係などを語った随筆・対談を収録。

『精神的季節』

(改題『月夜の記憶』)

昭和47年 講談社

「「杉田玄白 訳」の不思議」「心臓移植私見」「対談 切った人・切られた人」ほか、医学に関する随筆等を収録。

『患者さん』

(改題『お医者さん・患者さん』)

昭和49年 毎日新聞社

自身の医療体験を通して医者と患者のさまざまな姿を綴った随筆集。

『白い遠景』

昭和54年 講談社

「「冬の鷹」ノート」(一)(二)、「「ふぉん・しいほると」ノート」(一)~(三)、「「北天の星」ノート」(一)~(四)など、医学小説の取材ノートを収録。

『蟹の縦ばい』

昭和54年 毎日新聞社

健康診断のエピソードを綴った「胃カメラ」や、杉田玄白が義歯をはめていた事実と調査資料を記した「ハシカと義歯」ほか。

『冬の海―私の北海道取材紀行』

昭和55年 筑摩書房

「中川五郎冶について―「北天の星」」を収録。

『歴史の影絵』

昭和56年 中央公論社

「種痘伝来記」「洋方女医楠本イネと娘高子」ほか。

『旅行鞄のなか』

平成元年 毎日新聞社

楠本イネの母其扇(ソノオオギ)タキの名前の読みに対する読者の指摘と調査内容を記す「読者からの手紙」。自身の肺結核闘病を支えた弟の死を記す「義妹との旅」、ほか。

『私の引出し』

平成5年 文藝春秋

「江戸時代の伝染病」「偶然からおこなわれた心臓手術」「心臓移植と日本人」「胃カメラと私」「日暮里のお医者さん」ほか。

『わたしの流儀』

平成10年 新潮社

「光る壁画」を取り上げ、胃カメラの開発について述べた「ノーベル賞」、自身の肺結核闘病を記し、生きていることのありがたさを語る「病は気から」ほか。

『私の好きな悪い癖』

平成12年 講談社

「「日本医家伝」と岩本さん」、自身の肺結核闘病にふれた「私の中学時代」、「誤診と私」ほか。

『縁起のいい客』

平成15年 文藝春秋

「夜明けの雷鳴 医師 高松凌雲」の主人公・高松凌雲の孫との出会いを記す「幕末」や、「両親のこと、私の病気」など、自身の肺結核闘病と両親への思いを綴った随筆ほか。

『事物はじまりの物語』

平成17年 筑摩書房

「解剖」「胃カメラ」ほか。

『わたしの普段着』

平成17年 新潮社

短篇「梅の刺青」にふれた「雲井龍雄と解剖のこと」、「歴史に埋もれた種痘術」「予防接種」「私の仰臥漫録」ほか。

『回り灯籠』

平成18年 筑摩書房

バージャー病を患った自身の体験と凍傷に侵された漂流民について記す「漂流民の足」、「神々の沈黙」調査過程にふれた「コーガ」ほか。

『ひとり旅』

平成19年 文藝春秋

肋骨を切除した自身の手術体験とゴルフを勧めた丹羽文雄との思い出を綴る「ゴルフと肋骨」、『神々の沈黙』調査の旅にふれながら長崎の魅力を語った「私と長崎」ほか。

『歴史を記録する』(対談集)

平成19年 河出書房新社

三國一朗との対談「杉田玄白」羽田春兔との対談「歴史と医学への旅」ほかを収録。

『時代の声、史料の声』(対談集)

平成21年 河出書房新社

加賀乙彦との対談「弟の癌を自らの痛みとして」、吉行淳之介との対談「「記憶にある恐怖」篇」を収録。

『わたしの取材余話』

平成22年 河出書房新社

「「心臓移植」と狂気」「「心臓移植」取材ノートから」「中川五郎治について『北海道取材ノート』から」ほか。

『白い道』

平成22年 岩波書店

「「しいほるとの娘」が生きた時代」、前野良沢を語る「孤然とした生き方」、高木兼寛についての資料調査を記した「小説家としての興味」、「『暁の旅人』創作ノート」ほか。

『履歴書代わりに』

平成23年 河出書房新社

肋骨切除の手術を受けるきっかけとなった雑誌「保健同人」について記す「『保健同人』と私」、鼓膜再建手術の体験を綴った「春の入院」、自身の肺結核闘病を軸に、家族・兄弟のことを綴った「私の青春」ほか。

吉村昭全集・選集

『吉村昭自選作品集』
全15巻・別巻

平成2年10月~平成4年1月 新潮社

昭和期における創作の集大成。自身の闘病に基づく作品や、医学小説では「冬の鷹」(第10巻)を収めた。

『吉村昭歴史小説集成』
全8巻

平成21年4月~11月 岩波書店

没後に刊行された。幕末維新期を舞台とした作品を中心に編纂。「ふぉん・しいほるとの娘」(第6巻)、「冬の鷹」「夜明けの雷鳴 医師 高松凌雲」「暁の旅人」「雪の花」「梅の刺青」(第7巻)を収録。

【凡例】吉村昭の著作から、本展と関連する主な医学小説と、随筆・対談の所収作品を刊行年代順に記載した。改題は併記した。