会期

令和4年4月22日(金)から6月15日(水)まで

概要

 慶応4年(1868)5月15日に起きた上野戦争を、東叡山寛永寺山主輪王寺宮を中心に据えて描いた作品です。
 宮を擁立した幕府側の彰義隊と、長州藩の大村益次郎率いる新政府軍との戦いは、一日で幕を閉じる。宮と彰義隊は、大雨によってぬかるんだ道を、上野から日暮里、三河島、尾久へと敗走しました。
 吉村は、わずか一日の戦いを、荒川区内に残る資料や伝承を丹念に調べて詳細に描きました。また、東叡山領であった荒川区域の人々と宮との関係を次のように記しました。
 
 各村の村民たちの協力が、まことに印象深い。日頃から農作物その他を寛永寺に献上し、正月には村人たちが寛永寺に行って餅をつき、境内の清掃につとめている。かれらは尊崇する宮をかくまうことに専念し、逃避行に力をつくす。(「濁水の中を行く輪王寺宮」『ひとり旅』平成19年、文藝春秋)
 
 吉村は、「彰義隊」連載中に舌ガンを宣告され、入退院を繰り返しながら推敲を重ねました。これが最後の長篇小説になりました。