会期

令和4年10月21日(金)から12月14日(水)まで

概要

 『吉村昭自選作品集』(全15巻、別巻1)は平成2年から平成4年にかけて新潮社から出版され、刊行の際、各巻の月報に「私の文学的自伝」を付録した。少年時代の読書体験から小説を書きはじめた青年期、そして小説家として歩み始めた時期までのことを、メモや日記を読み返しながら吉村が記したものである。「贋金づくり」は第5巻の月報に掲載された。初の自費出版『青い骨』刊行の際のエピソードには、当時の心境と出版の重みが語られていて、小説家としての方向性を模索する吉村の姿がうかがえる。

 深夜、スタンドの灯の下でひそかに小説を書くのは、贋金づくりの仕事に似ている。贋金づくりがあれこれと工夫して本物の紙幣や硬貨と寸分ちがわぬものを作り出そうと努めるさまは、原稿用紙に文字を刻みつけ、読者に真実らしいと感じさせようとする小説づくりのそれと相通じている。